プロと素人の決定的な違い。スキルを高める科学的方法
一度は耳にしたことがあるかもしれない「1万時間の法則」。これは各分野において、プロフェッショナルになるためには1万時間の練習が必要であるというものです。
本記事は、この1万時間の法則の内容についてご紹介していきたいと思います。
いきなりですが、質問です。
どんな人でも1万時間マラソンを続けていたら長距離ランナーになることはできるでしょうか?
また、
どんな人でも1万時間歩いたら、歩きのプロといえるほど、歩くことについて詳しくなるでしょうか?
なんだかしっくりこないですよね。
では具体的にどんのような練習がプロと素人をわけるのか。
その問いに答えてくれるのが、ハイパフォーマンスや成功の心理学を研究しているアンダース・エリクソンさんです。
プロと素人の決定的な違い
彼の長年の研究によるとプロと素人の決定的な違いは
- 頭の中で行うシュミレーションの質(心的イメージ)
これが決定的に異なるといっています。
そして、1万時間というのは区切りがいいので採用されており、必ずしも1万時間であるというわけではないそうです。
その根拠となるエリクソンさんの研究をご紹介します。
この研究はベルリン大学にて行われました。
まず最初に、ベルリンの音楽学校にてバイオリン専攻の学生を3つのグループに分けます。
*ベルリン大学は世界的に音楽の世界では名門校で入るのすら難しいと言われています。
1, 将来世界的なバイオリニストになれるほどの実力者グループ
2, 「優れている」という評価にとどまっている人のグループ
3, 演奏者にはなれず、バイオリン教師を目指す人のグループ
そしてこの3つのグループすべての人に対して「時間の使い方」について質問しました。
結果
その結果は
どのグループの人も1週間で音楽活動や課題に費やす時間は同じ程度(50時間以上)でした。
ではなにが違ったのか。
それは個人練習に費やす時間であると言われています。
個人練習(エリクソンさんの論文ではdeliberate practice)とは
パフォーマンスのある側面を向上するために,よく計画された練習法に基づき練習し,その出来(フィードバック)に対して,さらなる向上のために,すべての注意を注ぐ訓練を意味します。
彼の研究における、個人練習の具体的な内容は、
上位2つのグループの人は週に24.3時間(1日3.5時間)を個人練習の時間、
バイオリン教師グループは週に9.3時間(1日1.3時間)を個人練習の時間と答えたようです。
その差は1日約2.2時間。
明らかな差ですね。
さらに第一グループ(プロの演奏家に最も近い)の人は個人練習を最も重要視していることのこと。
なんなら集団練習は「楽しみ」であり、真の練習は「個人練習」という人もいたそうです。
また、エリクソンさんの研究はバイオリニストだけではなく、チェスの分野でも似たような研究をしています。
そこでもプロになれる人とそうでない人では約5倍も個人練習の時間に差があったようです。
(ひとり指しが10年間に5000時間。年間500時間。少なくとも毎日かかさず1時間以上。とんでもない時間です。)
ではなぜ一人での個人練習が有効であるのか?
エリクソンさん曰く「能力や技術が向上するのは一人で黙々と取り組んでいる時である」と膨大な研究の結果とともに説明しています。
その理由の一つは、個人練習は義務ではなく、自発的であるためです。つまり、その活動にやりがいを感じていて、それに対して真剣に向き合えるからとのことです。
真剣に取り組み、新しい能力を身に着けるとさらに今までできなかった難しいことができるようになります。そしてまた、壁にぶつかります。
その繰り返しの過程で、自分ができることとできないこと(目標)との差を明確にしていきながら、どうすればできるようになるのか計画的に練習することが個人練習の最大の強み(限界的練習or意図的練習)のようです。
さて、話は戻って、
上述のバイオリン専攻の学生に行った調査の結果では、18歳までに将来バイオリニスト(演奏家)として見込みがあるといわれている人例外なく平均7410時間の練習量があったようです。
5歳からバイオリンを手にし始めたとしても、年間570時間も練習をしている計算になります。
少なくともエリクソンさんの研究からは言えるのは、どうやらプロフェッショナルとは才能だけではなく、圧倒的な練習量があるようですね。
では、先ほど出てきた「心的イメージ(シュミレーション)」を高めるための練習は具体的にどうすればよいのか?という疑問が湧いてきます。
エリクソンさんはその点にも言及してくれています。
心的イメージを高める練習法
まずは現在の自分の能力より少しだけ高いことに挑戦する練習(限界的練習or意図的練習)がかなり重要になるようです。
この自分の能力より少しだけ高いという指標はできるだけ客観的な指標があることが望ましく、プロの先生に教えてもらうことが一番の近道とエリクソンさんは言ってます。
その理由は、
- 常に自分の限界の練習の基準を適切に見極めてくれる
- できなかったとき、うまくいったとき、その場で何がよくて何が悪かったのかを教えてくれる(フィードバック)
この2点です。つまり、限界的練習(意図的練習)を行いながら、どうすると現在ぶつかっている壁を乗り超えられるのか、何がよくないのか、というフィードバックがシュミレーション能力(心的イメージ)を高めてくれるため、最も望ましいのですね。
しかし、そうはいってもみんながみんな、プロの教えを乞うことはできません。
そんな人に対してもエリクソンさんは「3つのFに気を付けながら練習しましょう!」とアドバイスをしてくれています。
能力を高めるための3つのF
- Focus(集中)
- Feedback(上手くいった、上手くできなかったという結果)
- Fix(問題を直す)
この3つです。
Foucus
短時間(1日最大5時間くらい)で集中した状態or環境で1回1回の活動の結果を注目する。
毎回、なんらかの指標(できれば数字など客観的なもの)をもって取り組むと出来不出来がわかりやすいですね。
そのため、自分がどのような環境なら集中できるかを知っているといいですね。
Feedback
何がよくて、何が悪いのかを絶えず確認する。
取り組む際に具体的な目標(客観的な指標)を作ると出来不出来がすぐにわかると思います。
Fix
それを修正する。
何がよかったのか、何ができなかったのか。どうすればできるのか。を丁寧に考え、次の練習に活かすということですね。
まとめ
- プロとその他の違いは単純練習時間でもある
- プロとその他の違いは時間だけではなくシュミレーション能力(心的イメージ)でもあった。
- トップの成果を残す人は個人練習の量が人一倍多い
- 能力向上には自分の能力より少しだけ高い能力が必要な練習(限界的練習or意図的練習)が重要
- 教えを乞う先生がいないときは、わかりやすい目標設定が重要
- 練習の際は集中、フィードバック、修正の3つを心掛ける
参考文献
本
Anders Ericsson & Robert Pool. (2016). PEAK(アンダースエリクソン・ロバートポール, 土方奈美(訳)超一流になるのは才能か努力か? 株式会社文藝春秋)
論文
Duckworth, A. L. Kirby, T. A. Tsukayama, E. Berstein, H & Ericsson, K. A. (2011). Delibarate
Practice Spells Success: Why Grittier Competitors Triumph at the National Spelling Bee.
Social Psychological and Personality Science, 2:174.